バニラクリームガムテープ
PARCOのスターバックスで決定的なことを言えた瞬間を今でも覚えている。
その頃、わたしは海辺の街に逃げ込んでいて、面接に何度も落ちながら、やっと決まったバイトを体調不良で断ったり、バファリンを4錠飲んでから酒を飲んだり、お金が底をついてきたり、ずっと仲違いしてた母親に助けてとLINEしたり、一緒に住んでいたあの人の前で泣きわめいたりしていた。
あの人は具体的な解決策を提示しないまま、自分には関係のないことだと、薄情な割り切り方をしていたけど。
そんな中、わたしの意思とは無関係に、地元に帰ることになった。
わたしは何度も実家には帰れない、喧嘩して家を出てきたからと訴えたのに、あの人は自分の娯楽だけを考えて、わたしのことなんて微塵も汲み取ってはいなかった。
でもそれが功を奏したとも言える。
土地には力があると思う。
帰ってきた途端、ずっと連絡を取ってなかった友達から電話が来たり、母親には泣かれながらもきちんと話ができたり、わたし自身ももう、やめよう、あの街には帰らないと、決めれたから。
混み合ってるスターバックスの中で、壁際の席で膝の上にiPhoneを置いて、わたしは画面を見つめながら、ただただ動かされるように、Twitterで貰った言葉を言っていた。
それは自分の意思とは無関係なようだけど、
絶対にわたしの本心だったと思う。
目の前のあの人は涙目になって、離れるのは嫌だと言ったけれど、決定的なことを言うと、目すら合わせてくれなかった。
それからその日中、ずっと。
帰り際、駅であの人が好きだとかごめんねとか言うから、あの人の頬を両手で包んで
「そんなに女の子と遊びたい?」って聞くと、目を逸らされたのを覚えてる。
それから遊びたい、2人きりとは言わなくても、3人とか、女の子とは遊びたい
って言われた。
「遊んでいいよ、もう何も言わないよ。だけど、本当に大切だと思ったら、わたしのこと、もっと大切にしてね」って泣きそうになりながら言った。
駅であの人に見送られながら、手も振らずに、振り返らずに帰った。
それが、あの人と会った最後の日だった。
思い出が無くしたパズルのピースみたいに、たまに断片を見つけては、途方に暮れている。
今とは全く違う、別のわたしの話。
別のわたしの人生。
海、深夜のチャイム、地名…
わたしに過去を思い出させる引き金が、世の中には沢山存在する。
こめかみに当てて、毎度自分を殺しても、何度でも生き返って、
今ある幸せを噛み締めてるのが、
地獄から天国に這い上がってきた、証拠なのか。